名湯と地域の誇りを未来へ。池田温泉再生プロジェクトの挑戦
【画像】写真上段左より、企画課長(温泉再生PTリーダー) 今西広和さん、企画課 勝野慎太郎さん、企画課 丹羽弘和さん、総務課 角山諒修さん、下段左より、税務課 河合有美さん、産業課 香田真理さん、保険年金課 竹中祐介さん
岐阜県池田町の「池田温泉」は開業以来、多くの人に親しまれてきましたが、29年を経たいま、施設の老朽化や経営面での課題も見えてきました。そこで町では、池田温泉再生プロジェクトチームを発足。温泉の魅力を未来へつなぐ新たな挑戦が始まっています。その活動内容や今後の目標について、温泉再生プロジェクトチームリーダーの今西広和さん、財政課長の國枝大樹さん、企業版ふるさと納税担当の深澤恵海さんに伺いました。
町の命運をかけて掘削した温泉は、地域に愛される「美肌の湯」に
「町に観光資源を作りたい。そんな当時の町長の思いが出発点でした」と今西さん。1992~3年に調査を進め、1994~5年に掘削、地下1,301.3m掘ったところでようやく温泉が湧出し、1996年11月に池田温泉が誕生しました。泉質はアルカリ性単純温泉で、湯温29.7℃、毎分290Lという豊富な湯量を誇ります。
「最大の特徴は肌がすべすべになる、ぬめりのある泉質。美肌効果が高いと評判をよび、中部圏内はもちろん関西方面からも多くの入浴客が訪れました。こうした人気の高まりを受けて2003年には新館を増設。池田町の観光拠点として定着したのです」と今西さんは振り返ります。
【画像】池田温泉本館の露天風呂「寝覚めの湯」
利用者数重視から、持続可能な経営へと見直しを決断
開業以来多くの方に利用されてきた一方で、温泉事業の経営は長年厳しい状況が続いてきました。飲食店の家賃などを含めた全体の決算が赤字に転落したのは2018年度からですが、温泉事業単体で見ると2007年ごろから赤字に。2024年度の決算では、燃料費高騰などの影響もあり、入浴料700円に対して1人あたりの経費が706円かかっていたといいます。
「これまでの運営は、利益よりも利用者数を重視してきた面がありました。過去の利益を積み立てた基金で赤字を補填してきましたが、2025年時点で基金残高は約6,600万円。年間約3,000万円を補填するペースでは、あと2年で底をつく見込みです。この状況に町長が危機感を示し、温泉再生プロジェクトチームの立ち上げに至りました」と今西さんは経緯を説明します。
【画像】お茶の香りに包まれて心身ともにリフレッシュできる「お茶サウナ」
各課から集まった職員が、一丸となって再生に取り組む
2025年6月に発足した温泉再生プロジェクトチームは、町の各課から集まった職員7名と、外部アドバイザー1名の計8名で構成。職員は本業と兼務しながら、池田温泉の再生に取り組んでいます。
「まずアンケートを実施したところ、約4割が施設設備に関する意見で、特に休憩施設への改善要望が多く寄せられました。これを受け、良質な温泉・清潔感・マナーの改善を3本柱とし、再生の取り組みをスタートさせました。お客様がいらしたときに『あら、前に来たときよりいいじゃない。まさか池田温泉が』と、小さな変化から驚きを感じてもらうことが狙いです」と語る今西さん。
第1弾の取り組みでは、期間限定で「薬草温泉」とお茶の香りを楽しむ「お茶サウナ」を導入。サウナ後に利用できる寝転びベッドも新たに設置し、手の届く範囲で快適性を高めました。
【画像】池田温泉本館の玄関。今後、ロゴや看板を一新予定
費用対効果を重視して、貴重な財源を適正に管理
2025年12月議会に提案予定の第2弾改善策では、イメージの一新・利便性の向上・安全性の確保の3つを柱に掲げています。イメージ面では、統一感のあるロゴと看板デザインを作成し、公式ホームページも一新。利便性向上では、脱衣所ロッカーの全面入れ替えや高級ドライヤーの導入を計画。安全性の確保では、障害者が利用できる貸切風呂「ふくしの湯」に畳を敷き、転倒防止や安心感を高める予定です。
「その後は、大規模改修を見据えた中長期計画へ移行します。クラウドファンディングや企業版ふるさと納税を通じて、これまでに約5,000万円の寄付を確保しましたが、まだ改修に充分とはいえません。いただいた資金は貴重な財源ですから、効果の高い部分から丁寧に使っていきます」と今西さんは語ります。
【画像】寝転びベッドと休憩チェアを設置した新館の露天風呂「やすらぎの湯」
寄付だけではない、企業との深い関わりが紡ぐ未来
「現在、企業版ふるさと納税による寄付企業は5社。いずれも池田町にゆかりのある企業で、経営者自身が池田温泉の利用者であるケースも多いです。『池田温泉がなくならないでほしい』『地域の元気を取り戻したい』という思いが支援の原動力となっているようです」と深澤さん。
國枝さんは「町のふるさと祭に協力して地域を盛り上げてくださった寄付企業もあり、資金支援を超えた交流が広がりつつあります。池田温泉の再生を通じて、町全体に活気を取り戻したいですね」と展望を語ります。今西さんも「池田温泉は町の象徴。温泉を中心に、賑わいのある町にしていきたいです」と力を込めます。
「町の発展や町民の幸せを一緒に考え、長く関わりをもってくださる企業からご寄付いただけたらうれしいです」と深澤さんは締めくくりました。
語り手
温泉再生プロジェクトチームリーダーの今西広和さん、財政課長の國枝大樹さん、企業版ふるさと納税担当の深澤恵海さん
| 自治体 |
岐阜県 池田町 |
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