標高が生む「赤と黒」の傑作。広島県神石高原町が挑む農業ブランド化戦略
【画像】ビニールハウスで「神石高原まる豊とまと」を育てる生産者
広島県の中東部に位置し、標高500~700mの高原地帯に位置する神石高原町。その冷涼な気候と豊かな自然を活かし、町が総力を挙げて取り組んでいるプロジェクトが「赤と黒のプロジェクト」です。町の主力産業である農業の担い手不足や高齢化という課題に対し、町はブランド化と環境整備を進めています。
今回はプロジェクトの核心と、企業版ふるさと納税を通じた共創の可能性について、産業課振興係長の渡邉修二さんにお話を伺いました。
地域のアイデンティティを象徴する「赤と黒」
「赤と黒のプロジェクト」は、町の農業を象徴する3つの品目を色で定義したブランド化戦略です。赤は40年以上の歴史がある「神石高原まる豊とまと」、黒は高級ブドウの「ピオーネ」と素晴らしい血統の「神石牛」を指します。この名称は合併後の初代町長のころから使われ始めたそうです。
渡邉さんは、この取り組みに対する町の人たちの反応をこう語ります。「『赤と黒』という言葉は、いまや町民の間に広く浸透しており、当たり前のように口にしています。この色によるブランド化は、神石高原町が農業の町として生き抜く覚悟を示すものであり、誰にでも伝わりやすい誇りとして地域に定着しているのです」
【画像】「神石高原まる豊とまと」を使用したバーガー発売報告のため、関係者が広島県副知事を表敬訪問(令和7年8月19日)
「若者が稼げる農業」を実現するトマト産地の底力
プロジェクトの柱の一つである「神石高原まる豊とまと」は、高い収益性が最大の特徴です。3,000㎡のハウス栽培で年間約2,500万円の粗利が見込め、経営努力次第で500~1,000万円の所得確保が可能です。こうした実績が功を奏し、全国的に農業の高齢化が進むなかでも、神石高原町では20~30代の新規就農者が増加しています。トマト生産者の平均年齢は50歳前後にまで若返っており、町の人口安定にも寄与しています。
「トマトは、若者ががんばった分だけ結果がついてくる、夢のある農業です。3〜4月から11〜12月ごろまで集中して働き、冬場はしっかり休めるというサイクルも、メリハリのある生活を求める今の世代にフィットしています。毎年苗を更新するトマト栽培は、毎年リセットして新しいチャレンジができるということも大きなメリットで、新規就農者にも自信をもってすすめられます。私たちのスタンスは、適切な自立を促す『甘やかさない支援』です。初期投資など最初の一歩は全力で背中を押しますが、その後は自分の努力で稼いでほしいと願っています」と、自身も兼業農家としてトマト生産に取り組む渡邉さんは熱く語ります。
【画像】標高500〜700mの高原が生み出す寒暖差により、真っ黒に色づいたピオーネ
緯度ではなく「標高」が鍵。猛暑に勝つピオーネの品質
「黒」で表されるピオーネは、一時はシャインマスカット人気に押されて需要が伸び悩んだ時期もありました。しかし近年の酷暑下で神石高原町産ピオーネの価値が再評価されています。
「いまの時代、農業において大事なことは緯度よりも標高だと痛感しています。近隣の産地がピオーネの着色不良に悩むなか、神石高原町産ピオーネは高原特有の厳しい寒暖差によって、見事な黒さと高い糖度を維持しているのです。単価も上がってきており魅力的な作物ですが、ブドウは木を植えてから出荷できるようになるまでに5年ほどかかるため、個人が新規就農で取り組むにはかなり高いハードルがあります。しかし、現在生産している農業法人も後継者不足で悩んでいるところがあるので、その木を引き継ぎながら新しい木を植えていけたらいいのではないかと模索しているところです」と、今後の展望を語る渡邉さん。
【画像】脂身と赤身のバランスが絶妙な神石牛
歴史と風土が醸成する、神石牛が誇る至高の魅力
もう一つの「黒」である神石牛は、大正天皇の「御大葬の儀」で棺を乗せる車を引く牛として選ばれた歴史をもつ名門血統です。
渡邉さんは神石牛の魅力をこう語ります。「石灰岩系のミネラル豊富な水と、起伏に富んだ高原での運動が、脂身と赤身のバランスが絶妙な肉質を育みます。現在は、種付けから肥育、販売まで一貫して手がける希少なモデルも誕生しており、国賓への提供実績を誇るほどの品質にまで高まりました」
【画像】「神石高原まる豊とまと」の出荷式。町長を囲んで、個性豊かな生産者が集合
企業版ふるさと納税が拓く、高原の町の未来図
町では現在、49種類もの精密選別が可能なトマト選果機の更新や、大規模な農業用ポンプの整備に企業版ふるさと納税の活用を計画しています。寄付企業に対しては、ワーケーション施設や森林セラピーを通じた社員研修など、深い交流の機会を提供可能です。
最後に、渡邉さんは未来のパートナーへ向けて熱いメッセージを送ります。「資金提供はもちろんのこと、スマート農業を推進するICT技術の提供や人材派遣など、様々な形で企業の皆様とつながれたらうれしいです。そして、支援いただいた方々には、ぜひ一度この町に来て、おいしい食べ物と、個性豊かで温かい住民とふれあっていただきたいです。新幹線の福山駅から車で1時間弱というアクセスの良さもあります。この町の農業をともに守り、育てるパートナーとして、末永い関係を築いていければこれほどうれしいことはありません」
語り手
神石高原町産業課振興係長
渡邉修二さん
| 自治体 |
広島県 神石高原町 |
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